小動物の診療

ウサギ

●知っておきたいこと

寿命 通常7~8年 稀に10年以上のウサギも見かける
性成熟 小型4~5ヶ月 中型4~6ヶ月 大型5~9ヶ月
全ての歯は、一生涯にわたり延び続ける(常生歯)、歯の手入れのため若い頃から干し草や野菜を沢山与える必要がある
涙嚢が大きいため炎症が起きやすい
消化器 嘔吐できない、盲腸が非常に大きい
尿 1日の尿量は多く、汚しやすい、そのため 夏場に皮膚病が起きやすい。雌は生理的な血尿をする場合がある
野菜、干し草を中心にペレット、果物も、ウサギは餌の種類には強情で1歳の時に食べたものしか食べない習性がある
飲水 →「ウサギに水を与えると下痢をして死亡する」という迷信があるが間違いである
※飲水ボトルで水を与えるが、最初は口を近づけて与え憶えさせる必要がある
※水が不足すると尿路結石が起きやすくなる
妊娠期間 29~35日(平均31または32日)
排卵 ウサギは誘起排卵動物であり、交尾後9~13時間で排卵が誘発される。ウサギには性周期はない
産子数 1~12頭
離乳 4~6週
※備考:ウサギは1日1回3~5分しか授乳しない
子ウサギ 生後、2週間で目が開き、3週間で柔らかい草を食べる、離乳は45日くらい

●飼育上の一般的な注意点

ウサギの歯は生涯、延び続けます。よって、ウサギにペレットを主にした食事を与え続けると不正咬合(歯の噛み合わせが悪い)が起きます。
また、ウサギは嘔吐できないので、ペレットを主にした食事を続けると胃腸の蠕動が悪くなり、ある時期に、毛球症→胃腸の動きが停止→胃・盲腸鼓腸症を起します。よって繊維質の多い食事を主にしてペレットは全体量2割から3割程度にしましょう。
※急激な食事の変更(ペレットと野菜の割合)は下痢を起こすので徐々に変更しましょう。
※ウサギは元来、生後すぐに食べた食事しか食べない傾向にあるので初めて与える野菜は受けつけない事が結構あります。

●ウサギの処方食

3つの要素が各種の疾病を予防します
(1)豊富な食物繊維が消化器の障害を予防します  
(2)エネルギーを従来のフードより、10~20%控えた低カロリーで肥満を防ぎます  
(3)カルシウム含有量を制限し尿路結石症を防ぎます。カルシウム含有量を抑えることで尿路尿石症を防ぎ、しかも消化を促進する食物繊維を多く含む低カロリー。さらに天然蜂蜜を加えて嗜好性を増しています。
※詳しくは受付、診察の際にお尋ね下さい
※この処方食を与えていても、不正咬合の予防のため野菜やワラ(干し草)は十分に与えて下さい
※一度でも尿路結石症を起こしたら与える野菜はカルシウム含量が少ないものを中心に代える必要があります(詳しくは診察室の際に)

●ウサギに多い病気

◎ウサギの毛球症

もともとウサギは、人間、犬、猫と違い食道と胃の構造上、吐く事ができない動物です。それはウサギの胃は、幽門と噴門とが接近しているのと幽門括約筋の構造の違いからです。よって繊維質の少ないフード(ペレット)のみを長期間与えていると、胃の中に毛の塊ができてしまいます(ヘアーボール)。毛以外にも新聞紙やタオルなど色々なものを食べてしまい通過障害を起こします。
野菜や乾燥した牧草などの繊維質の多い食事は良く胃や腸を動かし消化管内の毛も除去するようです。
胃の中の毛の塊はある時期に胃や腸の動き(蠕動)を停止させます。また二次的に胃や腸内でガスが発生して胃鼓腸症や盲腸鼓腸症を起します。

【毛球症の症状】

急な食欲減少/元気消失/排便がない(少ない)/下痢・便秘を繰り返す/歯ぎしり(痛みから)/急性の幽門閉塞が起きた場合には沈鬱、脱水、疼痛、低体温でショックに至る場合もあります/その他稀に、体温正常、X線で胃の拡張を確認でも突然死するケースもあります(胃の捻転が原因と思われます)。

【毛球症の要因】

繊維質の少ない食事 長毛種のウサギ 時期としては換毛の時期の1~3月が多いと言われますますが、経験上、1年とおして発症します。

【X線検査】

X線検査で胃の拡張と内容物の有無を見ます。
・食欲がなくても胃が大きい場合は本症が疑われます。
・食事をしていないのに胃がかなり拡張している場合は毛球症だと思われます。また、以上の所見以外に腸内にガスの貯留が多く見られる場合(盲腸鼓腸症併発)は予後はあまり良くありません。
・胃内にガスのみが大量に認められる症例は、毛球が幽門に閉塞して通過障害を起こしている可能性があります。

【外科手術】

外科手術は胃内の毛や異物の塊を除去するだけなので手術をしても良くなる確率が確実に高くなるわけではありません。
犬猫と違ってウサギは食べたものをよく噛んで食べる習性があるので、大きなものを丸呑みしません。よって外科的な治療よりは内科的な治療で良くなる場合が多いです。しかし、胃の中の毛玉やシーツやタオルの繊維が絡まって詰まり外科治療が必要な場合もあり、内科的に治療を進めるか外科的に治療を進めるか非常に難しい病気です。
当院では最初はほとんど内科的に治療を進めて行きます。X線検査などでどうしても毛や異物の塊を除去できない場合や幽門閉塞の場合には外科的なアプローチが必要になります。
※外科的なアプローチも手術するタイミングが非常に重要です。経過がかかりすぎて盲腸鼓腸症をすでに起こしているものでは予後はあまり良くありません。

【パイナップルジュース】

毛球症の予防にはパイナップルジュースを飲ませると良いと言われていますが・・・
これはパイナップルの中の消化酵素(ブロメライン)が毛球を溶かすのを期待してのものです。しかし、最近は、胃内のような酸性下の状況ではあまり効果がないとも言われています。

◎ウサギの不正咬合
【ウサギの歯の特徴】

ウサギの歯は人間、犬、猫と違い一生涯延び続ける常生歯です。これは歯の根尖部が開いている(open rout)という形態によるものです。下顎切歯では1週間で2.4mm延びると言う報告もあります。ウサギの歯式は、口から見える歯(切歯)は上顎に左右2本(一列に縦に並ぶ)、下顎に左右1本あります。口から見えない奥歯(臼歯)は、前臼歯は上顎に左右3本 下顎は左右2本あります。後臼歯は、上顎に左右3本、下顎に左右3本あります。 これらの常生歯を食事の摂取などで自ら磨耗して歯冠の長さを調節しています。

【ウサギの歯式】

上顎 I2 C0 P3 M3
下顎 I1 C0 P2 M3
(I:切歯 C:犬歯 P:前臼歯 M:後臼歯)

【不正咬合とは】

長期間にわたり繊維質の少ない食事(ペレット)を与え続けていると奥歯(臼歯)は上下運動だけでペレットを噛み砕き側方運動が減少して、歯どうしの磨耗が少なくなり、歯の噛み合わせが悪くなります。前歯(切歯)は外から見てすぐに分かりますが、奥歯(臼歯)は検耳鏡やCCDカメラやX線にて確認する必要があります。
※長年、ペレットだけで飼育しているウサギの歯をCCDカメラで口腔内を覗いて見たりX線検査をするとほとんど不正咬合はあります(臨床症状はなくても)。

【不正咬合と食欲減退】

前歯(切歯)では歯が外に延びる場合は食べる時に歯が邪魔になり食べにくくなります。また、歯が内に延びる場合は口唇や歯肉に延びた歯が当たり痛みを生じて食べられなくなります。
奥歯(臼歯)は上顎の臼歯が外側に変位し、下顎の臼歯は内側に変位します。その内側に変位した下顎の歯の一部が尖った場合に舌の側面を傷つけ舌炎を起こします。それでウサギは舌の痛みから食事を食べなくなります。稀に腐歯だけで食欲が減退することもあるのでレントゲン検査で鑑別が必要です。
不正咬合→舌炎の場合と不正咬合→腐歯では対応、治療が違ってきます。
※ビスケット類など砂糖を含んだおやつの長期の摂取から腐歯になる場合もあります。
※現在、当院では、診察室にてCCDカメラと液晶テレビを設置して臼歯の不正咬合の状態を画面に影像として映し出しすことが可能になりました。

【不正咬合の原因】

市販のラビットフードのドライタイプ(ペレット)は人間が作り出したものです。非常に栄養価が高く妊娠中や衰弱したウサギには良いのですが、それだけでは良くありません。それはウサギの歯は一生涯延び続けるので簡単に割れて食べられるペレットよりも繊維質の多い野菜やワラ(干し草)の方がウサギは歯を使い、歯が磨耗するからだと言われています。もちろん一生涯、ペレットだけで生活しているウサギもいます。これらは不正咬合はあるのですが、歯に尖りがなく舌を傷つけなく痛みの発現が偶然ないだけなのです。
また、野菜を与えていても軟弱なレタスやキャベツ中心では、歯をあまり使いません。

【不正咬合の症状】

前歯(切歯)の不正咬合は、外見から歯が長くなり分かります。それが原因で食事を食べにくくなります。 奥歯(臼歯)の不正咬合は、食欲減少、ヨダレで下顎が汚れるなどです。なかなか外見から判断できません。原因は不正咬合があり、下顎の歯が内側に尖り舌の側面に傷をつけて、その痛みが原因で食欲減少やヨダレが起きます。

【不正咬合の治療(以下、簡単に説明 詳しくは診察室で)】

前歯(切歯)と奥歯(臼歯)では治療方法は全く違ってきます。
前歯(切歯)の場合:無麻酔で歯を切断します。全身麻酔は全く必要ありません。歯の切断は、爪きりで切歯を切断すると歯根に痛みを起こすので決してしません。高速回転の医療器具を用いて尖った歯を切断します。通常の外来診察で行いますので、特に予約は必要ありません。但し、院長のみが行いますので不在の場合はできません。処置後に痛みは起きません。
奥歯(臼歯)の場合:全身麻酔が必要になります。麻酔下にて尖った歯を高速回転のドリルで研磨します。

【抜歯に関して】

ウサギの歯は、臼歯では口腔内に出ているのは全長の5分の1にすぎないため、歯根部が侵されていないかぎり抜歯は難しいです。
また、解剖学的にウサギは大きく口を開けられないので、奥歯(臼歯)ではまず不可能でしょう。不正咬合の処置の際にもドリルで削るのがやっとの状況です。前にも述べてありますが、ウサギでは歯が生涯にわたり延び続けるので、上顎の歯を抜けば今度は下顎の歯が磨耗しなくなり、より不正咬合になります。また、奥歯では上顎と下顎の歯の本数は違うので、上下1本抜歯すれば良いと言うものでもありません。
よって獣医療では、(犬猫とは違い)ウサギの場合はぐらつきのない歯の抜歯はほとんど行ないません。

【不正咬合があった後の食事管理】

不正咬合があったらその程度を判断します。X線で歯根の圧迫による下顎骨ラインの湾曲、CCDカメラで口腔内の臼歯の角度、尖がり具合、ヨゴレの有無と程度。それらから判断して食事の変更が必要かどうかを判断します。
すでに不正咬合がある場合は、今後、痛みが出る可能性があります。よって不正咬合の程度によっては、無理に繊維質の多い野菜に切り替えない方が良いこともあるので食事内容は獣医師に相談して下さい。

【食事変更の際の注意点】

ウサギは元来、生後すぐに食べた野菜しか食べない傾向があります。今までに与えた事がない野菜を与えても食べないことが多々あります。よって食事を変更できない場合もあり、徐々に割合を変えていった方が良いでしょう。
ウサギは急にペレットと野菜やワラ(干し草)の割合を変えると下痢を起こすことがあります。よって徐々に割合を変えて食事を変更して下さい。
※食事を繊維質の多い食事に変更したら必ず体重をチェックして下さい。

【その他の不正咬合の合併症】

・歯根膿瘍
・臼歯歯根の吸収
・流涙(軽度の場合)
・膿性眼漏
・眼球突出
・顔面腫大
・下顎の皮膚炎(涎れによる) 
・腐歯 
・不正咬合による食欲減退から毛球症など

【その他:臼歯(奥歯)の尖りを無麻酔で削ることに関して】

切歯(前歯)の処置と違って臼歯(奥歯)を無麻酔で尖った歯を削る場合、無理に口を大きく開けたりするので、かなりのストレスをウサギにかけると思われます。この強いストレスからカテコールアミンが大放出されてウサギは突然死する可能性があるのではないか? と思います。よって状態がよければ、やはり全身麻酔での処置の方が安全ではないかと(個人的には)思います。

◎腐歯

人用またはウサギ用のビスケット類には砂糖が含まれています。それらを長期間、摂取し続けると歯が腐歯になることがあります。ウサギは慢性的な口の痛みで食欲が減少します。広義の不正咬合になるかもしれませんが、原因が違うので分類しました。

◎斜頚

前庭の機能不全により頭が傾き平衡感覚がなくなったもの。エンセファリトゾーンが原因で発症する場合とパスツレラ菌(Pasteurella multocida)によって誘発されることが多い。治療を開始して1週間以内に改善する場合は予後は良く、改善されない場合は治療法を大幅に変更する必要があります。  

◎エンセファリトゾーン症

細胞内、微包子虫性の寄生虫(Encephalitozoon cunicul)が脳、腎臓に寄生して斜頚、麻痺、痙攣などの神経症状を起こす疾患です。以前から実験兎で発生はあったが、最近では海外から兎が輸入されるためかペット兎での報告例もあります。完全な診断、検査法はありません。感染から発症するまでには固体差があるようで今だはっきり分かっていない病気です。  
※駆虫には4週間の投薬が必要です。

◎スナッフル

粘液性の鼻汁、クシャミ、咳などを起こす。パスツレラ菌を原因とする。

◎耳ダニ症

耳の中にウサギキュウセンヒゼンダニが寄生するものです。比較的、ウサギは痒みを見せません。

◎子宮癌

ウサギの腫瘍の中では一番に多い腫瘍です。また、癌化していて予後は良くありません。

◎子宮蓄膿症

子宮の中に膿がたまるもの。手術で良くなりますが、状態にもよります。
※犬猫と違い、子宮蓄膿症よりも子宮癌の方が発生は多いようです。

◎乳腺腫瘍

腹部の乳腺に最初小さなしこりができます。飼い主に発見されるのが遅く、かなり大きくなってから、または腫瘍が自壊して出血が起きてから来院することが多いようです。

◎尿路結石症

膀胱内に結石が形成されるもの。シュウ酸カルシウム結石が多く、他に炭酸カルシウム、リン酸アンモニウムがあります。症状は血尿、頻尿です。通常は外科手術が必要ですが、小さいものはカルシウム含量の少ない野菜を続けることで消失する場合もあります。  
※手術などで結石を除去しても、同じ食事を与えると数ヵ月後に再び結石は形成されます。
※最近は予防食のペレットも販売されています。
※結石が小さい場合、手術をしなくてもある種類の野菜の組み合わせの食事で結石はなくなります。

◎消化器疾患

急に野菜を多く与えたり、毛球症に起因するものや、便秘やガスが溜まる鼓腸症などがあります。
※急激な食餌の変更は胃腸疾患を引き起こすので徐々に変更しましょう。

◎消化管寄生虫

コクシジウムや蟯虫が多いです。ウサギは食糞の習性があるので駆虫はなかなか困難な場合があります。

◎胃内異物

胃腸内異物としては毛球が多いですが、その他ペットシーツ、新聞紙、タオルなども多いです。基本的にウサギはなんでも食べてしまうので注意して下さい。

◎皮膚病

特に飼育上の問題で皮膚病が起きることが多いようです。また、若齢期では、カビ(真菌)によるものが多いです。
※カビでは毛を数日間、培養して診断します。

◎飛節潰瘍

硬い床、狭いゲージ、不衛生な環境などにより後肢の床に接触する部分に起きる皮膚炎。ひどくなると潰瘍、膿瘍などになる。

◎皮下膿瘍

何らかの原因により皮下に膿瘍が形成されるもの。ウサギの膿瘍はチーズの様に硬くなり抗生物質の投薬をしても反応がないものが多い。外科手術が必要な場合が多い。

◎眼病

ウサギは目と鼻の通路の鼻涙管の涙嚢が大きく炎症が時にあります。
※不正咬合により上顎の歯根が後ろに押しやられ鼻涙管を圧迫して目やにを起こる例も多いです。

◎後肢の骨折

ウサギの後ろ足のキックは非常に強いです。時にその強さの為に骨折することがあります。

◎爪の損傷

ウサギも犬猫同様に爪は延び続けます。定期的に爪を切らないと引っかかって爪の根元付近から折れて出血します。
※爪の根元付近には血管と神経があり、中途半端に爪が残ると出血や痛みが生じます。

◎椎骨の骨折

ウサギは背骨(胸椎、腰椎)や首の骨(頚椎)が脱臼や骨折しやすい動物です。
※ウサギは無理な保定をすると時として脊髄損傷を起こします。

◎熱射病

ウサギは暑さに弱いです。野外では日陰で飼育しましょう。

◎ウサギ同士による喧嘩

多頭飼育の場合、成熟した雄は時として縄張り争いから闘い始めます。雄はなるべく分けて飼育して下さい。ウサギは一番強い雄が雌を束ねて生活する動物なので複数の雄を一緒に飼育するのはやめましょう。

◎難産

稀に雌ウサギが出産できずに来院する場合があります。外陰部から出血をしていて力んでも胎児がでずに来院します。だいたいは胎児の頭が産道に引っかかっています。麻酔にて帝王切開になります。